広島地方裁判所福山支部 昭和48年(ワ)25号 判決 1973年6月08日
原告
豊田正明
被告
山田善太郎
ほか一名
主文
被告両名は原告に対し、各自金二二八、九〇〇円および内金一九八、九〇〇円に対する昭和四七年七月三一日から、内金一五、〇〇〇円に対する昭和四八年二月一二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告両名の連帯負担とする。
此の判決第一項は、原告が各被告に対しそれぞれ金八〇、〇〇〇円の担保をたてたときは、その被告に対し仮に執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は、「被告両名は原告に対し各自金三三〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四七年七月三一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、
「一 原告は昭和四七年七月三一日午後一一時三〇分頃広島県福山市霞町一丁目一番一号広島銀行福山支店前国道二号線交差点において、普通乗用車を運転して西進し赤信号のため停車中、後方から来た被告谷口嘉人運転の普通貨物自動車に追突されて傷害を受け、かつ原告の車両も損傷を受けた。
二 原告は右交通事故により頸部鞭打損傷の傷害を受け、外科病院に一ケ月間通院して治療を受けた。右治療費は被告山田善太郎が支払を済ませているが、原告は右傷害により鞭打損傷それ自体の生理的苦痛、通院中の各種の負担および後遺症発生の恐れの精神的苦痛ならびに酷暑の八月一杯頸部にギブスを当てざるを得なかつた肉体的苦痛を蒙つた。これに対する慰藉料としては一〇〇、〇〇〇円を相当とする。
三 原告はその運転していた車両が大破したため、その修理費として一九〇、九八〇円を要した。
四 被告山田善太郎は運送業を営んで居り本件追突車両の運行供用者である。又被告谷口嘉人には本件事故当時前方注視又は車間距離保持義務に違反した過失があり、そのため本件交通事故が発生したものである。それ故被告両名は原告に対し原告が本件交通事故によつて蒙つた前記損害合計額である二九〇、九八〇円を支払うべき義務がある。
五 原告は被告両名が右損害賠償金を任意に支払わないので本件訴訟追行を原告訴訟代理人に委任し、弁護士費用として四〇、〇〇〇円を要した。これも被告両名において支払うべきものである。
六 よつて原告は被告両名に対し右損害金中三三〇、〇〇〇円およびこれに対する本件交通事故の日である昭和四四年七月三一日から支払ずみまで民事法定利率の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」
と述べた。〔証拠関係略〕
被告両名は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、原告の請求の原因に対する答弁として、
「一 原告主張の日時場所において被告谷口嘉人運転の自動車が停車中の原告運転の自動車に追突したこと、右交通事故により原告が傷害を受けその運転車両に損傷を生じたこと、被告谷口嘉人が被告山田善太郎の従業員であることおよび被告らが原告の治療費全額を支払つたことを認める。
二 その余の原告主張事実を知らない。
三 特に原告主張の車両の損害額については次のような事情がある。原告運転の自動車はコロナ四三年型の古い小型乗用車であつて、事故当時の昭和四七年七月三一日における価格は一四八、九〇〇円に過ぎない。従つてこの自動車が全然無に帰したとしても顛補賠償金額は一四八、九〇〇円を出ないものである。而も耐用年数も二年もないものである。従つてこれの損害額が一九〇、九八〇円という原告の主張は失当である。」
と述べ、抗弁として、
「被告山田善太郎は原告に対し賠償方法として同種同型同年式の被害車両に相応する自動車を提供することを申出たが原告はこれを肯き入れず、又一五〇、〇〇〇円で被害車両を買取るべきことを申入れたがこれも承諾せずして一九〇、九八〇円の支払を被告らに求めるが、かくの如きは不当な利益を獲得する目的での請求であり、信義誠実の原則に反し権利の濫用である。」と述べた。〔証拠関係略〕
理由
原告主張の日時場所において、一時停止中の原告運転自動車に被告谷口嘉人運転の自動車が追突し、その結果原告が傷害を受け、原告運転自動車が損傷を受けたことについては当事者間に争いがない。
〔証拠略〕によると、右交通事故に際し被告谷口嘉人に前方不注視又は車間距離不保持の過失の存することが推認され、此の認定を覆すに足る証拠はない。又被告山田善太郎が被告谷口嘉人運転自動車の運行供用者であることについては当事者間に争いがない。それ故被告両名はいずれも原告に対し原告が本件交通事故により蒙つた損害を賠償すべき責任があるものと言わなくてはならない。
そこで原告の損害額について考えてみる。
(一) 〔証拠略〕によると原告は本件交通事故により鞭打症の傷害を受け一ケ月間通院治療し、傷害およびその治療のためのギブスによる苦痛、通院に伴う煩わしさおよび後遺症に対する不安などにより多大の精神的損害を受けたことが認められ、その慰藉料としては五〇、〇〇〇円が相当であると認められる。
(二) 〔証拠略〕によると、原告はその運転自動車の修理費用として一九〇、九八〇円を支払つたことが認められる。しかしながら他方〔証拠略〕によると原告運転自動車の本件事故当時の推定価格は一四八、九〇〇円(但しクーラーを除く)であることが認められる。そうすると仮に原告運転自動車が全く使用不能となつたとしてもその損害は右一四八、九〇〇円を超えないものであり、原告の車両破損による損害は通常此の金額をもつて最大限とすべきである。それ故原告が右自動車につき一九〇、九八〇円の修理費を支払つたとしても、その中右一四八、九〇〇円を超える部分は原告運転の自動軍に通常の推定価格を超える特別の価格が存したことを前提とする民法第四一六条第二項にいう特別の事情によりて生じたる損害であつて、従つて被告らにおいて此の事情を予見し又は予見することを得べかりしときに限り原告はその賠償を請求し得べきものであると解されるところ、被告らが右の事情を予見し又は予見することを得べかりしことを認めるに足る証拠は存しない。結局原告の自動車の損傷による損害額は一四八、九〇〇円であると言うべきである。
それ故原告の本件交通事故による損害合計額は一九八、九〇〇円となる。
そして〔証拠略〕によると、被告両名が右損害賠償を任意に支払わないので原告が本件訴訟追行を原告代理人に委任し、着手金として一五、〇〇〇円を昭和四八年二月一二日に支払つたことが認められる。そして本件における右着手金および報酬をも含めた適正弁護士費用額は三〇、〇〇〇円であると認められる。それ故被告両名は此の金額を前記損害額に併せて原告に支払わなければならない。
被告両名は権利濫用の抗弁を主張するけれども、仮にその主張のような事情があつたとしても、原告がこれと別の見解に立つて本訴を提起したことは権利の濫用であるとは言えない。被告らの抗弁は採用出来ない。
結局被告両名は各自原告に対し損害賠償金二二八、九〇〇円およびその中弁護士費用の三〇、〇〇〇円を除いた一九八、九〇〇円に対する本件交通事故の日である昭和四七年七月三一日から、弁護士着手金の一五、〇〇〇円に対するその支払の日である昭和四八年二月一二日から支払ずみまで民事法定利率の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるものと言わなければならない。
よつて原告の被告両名に対する本訴請求中右の範囲内にある部分は理由があるからこれを認容すべく、その余の部分は理由がないからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行の宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 武波保男)